「Pass the baton」 自然の恵みと希望を渡すバトン
— オーガニックコットンが教えてくれたこと —
近年、私たちは食品や農産物について、産地や生産者を知る機会が増えました。 けれども、今あなたが着ている洋服が、どこで、誰の手によって作られたのかを知る人は、あまりいないのではないでしょうか。
私は、2004年にオーガニックコットンのライフスタイルブランド「SkinAware スキンアウェア」を立ち上げ、リラックスウェアやスリーピングウェア、インナーをつくってきました。
2018年秋、インドにあるオーガニックコットンの農法を研究するラボと農場を訪ねる機会を得ました。ちょうどオーガニックコットンの収穫の時期ということもあり、その年の収穫を祝うイベントも行われました。
オーガニックコットンを畑で育てる人々、そして自然の力を活かした農法を研究し、上質なコットンをつくるため品種改良に取り組む人々。彼らがどのように日々努力し、試行錯誤を重ねているかを直接聞くことができました。
オーガニックコットンとは
オーガニックコットンの定義は、世界的な基準として定められています。
- 3年以上、農薬や化学肥料を使用していない土地で栽培されること
- 遺伝子組み換えの種子を使わないこと
- 農業従事者が安全な環境で働き、児童労働を行わないこと
こうした厳格な環境・労働基準をすべて満たし、第三者機関によって認証されたコットンだけが「オーガニックコットン」と呼ばれます。
コットン産業が抱える現実
一方で、従来型のコットンは、世界で最も「汚染された」作物のひとつといわれています。主要な農作物の中でもっとも多くの化学農薬を使用しており、コットンは世界の耕作地全体のわずか 2.4% を占めるにすぎませんが、世界の農薬使用量の 6%、殺虫剤使用量の 16% を占めています。(*1)
この“有毒な化学物質への依存”が、生産者の健康と自然の環境をむしばんでいます。私たちが安価な非オーガニックコットンの衣服を買うたびに、その連鎖に無自覚のまま加担しているのです。しかし、真の代償を払っているのは、健康被害や貧困に苦しむ農民たちです。
多くの発展途上国の農家は、多国籍農薬企業によって「コットンを育てるには化学物質が不可欠だ」という“偽り”を信じ込まされてきました。特に世界最大のコットン生産国インドでは深刻です。毎年、約 580万人 のコットン農家の多くが農薬への曝露で中毒を起こし、命を落とす人もいれば、慢性的な病に苦しみ続ける人も少なくありません。(*2)
希望を育てる人たち
私が訪ねたインドのラボと農場で出会った彼らは、そうした過酷な 現実を変えようと、厳しい認証の基準をクリアするオーガニックコットンの生産に取り組んでいました。それだけでなく、もっと肌触りがよく、優れた光沢感や風合いのコットンの品種を栽培するために、たゆまぬ努力をしていました。
その取り組みを私に語ってくれた彼らの目は情熱と希望でキラキラ輝き、言葉には自信と誇りがあふれていました。
こんなに目をキラキラさせて自らの取り組みを話す人は、今の日本にいるだろうか。
日本と比べると決して恵まれているとはいえない環境で、未来の可能性を信じて一歩ずつ進んでいる彼ら。
希望は、恵まれた環境からだけ生まれるものではなく、自らの誇りや夢から生まれるものなのだ、と気付かされる機会でした。
オーガニックコットンの
ラボのスタッフが勢揃い
品質がよいコットンの種を交配し
改良する過程を説明するラボの所長
オーガニックコットン畑で働く女性たち
その翌日、村全体でオーガニックコットンを生産している農場を訪れました。
村長や村人、子どもたちが一堂に集まり、その年に収穫したふわふわのコットンを見せてくれました。
イギリス、フランス、スイス、日本など、世界各国からオーガニックコットンに関わる人々が、この視察の旅に集い、村人たちとの交流が生まれました。
オーガニックコットンを使ったアパレルを展開する人
糸や生地を生産する会社の人
サステナブル なファッションの研究をする大学教授
オーガニックコットンの産業を取材するジャーナリスト
インドの田舎の一つの村が、彼らが大切に育てたコットンで、遠く離れた国の人々とつながっている。
この村に生きる彼らは、海外に行く機会が一生ないかもしれません。
それでも、自分たちが育てたコットンが世界をつないでいるという誇りが、その表情にはっきりと見えました。
村の人々は、音楽と歌で私たちを歓迎してくれました。
村の人と視察の客人たちが集まった輪の中で、私が自己紹介をし、こう伝えました。
2004年に日本でオーガニックコットンのブランドを始めたこと。
そして、15年の歳月を経て、ようやくそのコットンを育てる人々に出会えた喜びを。
オーガニックコットンを育てる村の
村長が歌で迎えてくれた
村の子供たちから歓迎をうけた
Pass the baton — バトンをつなぐ
集まりの後、このオーガニックコットンのプロジェクトをスイスとインドで立ち上げ、この農場やラボ、サプライチェーンを構築した創始者パトリックが私のもとにやってきて、こう語りました。
「オーガニックコットンを生産する会社にとって、継続的に買い続けてくれる人の存在こそが支えになるんだ。毎年少しでも購入してくれることが、何よりもの支えであり、大きな力なんだ」と。
パトリックは、コットン産業の困難な状況を目にし、生産者が健康的にコットンを育てられる仕組みをつくり、人間としての尊厳を持てる環境を作るため、25年もの歳月をかけて多くの困難を乗り越えてきたのです。
この村で育ったコットンが、スイスに渡り、糸になり、日本に届いて生地になり、染色を施し、工場で衣服として縫製され、ショップに並び、そしてお客さまのもとへ届く。
私は、そのバトンを最後に受け取り、お客さまに渡すアンカーの役割を担っている---- それまでがむしゃらにブランドを続けてきた私が、自分の大切な役割に気づいた瞬間でした。
オーガニックコットンプロジェクトの
創始者、パトリックと
自然と希望のリレー
収穫したコットンの山の上で皆で祝福
インドで出会った人々の瞳にあふれていた、あの情熱と希望。
その想いを載せたオーガニックコットンの服を、私はこれからも多くの人に届けたい。
オーガニックコットンの服に素肌が包まれたとき、
農薬や化学肥料を使っていない、自然の力強い優しさを感じることでしょう。
そこには、自然と人の手が織りなす希望とぬくもりが息づいています。
希望を紡いだバトンから生まれた服をまとえば、きっとあなたの前向きな日々を支えてくれるはず。
オンラインショップでクリックすると、次の日には商品が届く時代。
その服は、誰がどこでつくったの?
その食べ物は、どんな土地で育ったの?
少し立ち止まってみてほしいのです。
自然を活かした製法で丁寧に作られた食品も衣服も、自然の恵みを大切にする人々の手によって、静かに紡がれています。
人から人へ、土地から土地へ——。
自然の恵みと希望のバトンは、今日も確かに受け渡されている。あなたもそのバトンを受けとって、自然とともに、こころとからだを“ととのえる”日々を過ごしてみてはいかがですか。
