大寒に仕込まれる、静かな熱をもった味噌

一年でいちばん寒いといわれる「大寒」。暦の上では冬の極みを迎えるこの時期、今年は最強・最長寒波が訪れ、ひかり味噌󠄀 飯島グリーン工場のある長野県上伊那郡は、朝の気温はマイナス10度まで冷え込みました。

吐く息が真っ白に凍りつき、空気が張りつめるような寒さの1月23日、ひかり味噌󠄀 飯島グリーン工場で行われた「大寒仕込み」に参加させていただきました。

工場へ向かう道中、窓から見える信州の山々は雪化粧をまとい、朝日に照らされて白く輝いていました。この厳しい寒さこそが、良質な味噌󠄀を育む大切な条件であることを、この日あらためて実感することになります。

日本のものづくりの精神が息づく場所で 飯島グリーン工場から望む、
雪化粧をまとった中央アルプスの山々

日本のものづくりの精神が息づく場所で

日本のものづくりの精神が息づく場所で 京都・松尾大社に由来する祠での宮司によるご祈祷

大寒仕込みは、工場内にある京都・松尾大社に由来する祠での祈願から始まります。一年の味噌󠄀づくりの無事と、おいしい味噌󠄀に仕上がることを願う時間。参加者全員が静かに手を合わせ、祈りを捧げるその瞬間、「ああ、歴史のある行事に参加させていただいているんだな」と、背筋がすっと伸びるような気持ちになりました。

味噌󠄀づくりは、千年以上前から日本人の食生活を支えてきた伝統的な発酵文化です。そこには、日本のものづくりの精神がしっかりと息づいています。効率だけを追い求めるのではなく、自然の摂理に寄り添い、時間をかけて丁寧に育てていく。その姿勢は、現代を生きる私たちにも、大切なことを教えてくれるようでした。

  • 参加者全員で御神酒を飲む様子 参加者全員で御神酒を飲む様子
  • ぐっち夫婦・Tatsuyaも参拝に参加 ぐっち夫婦・Tatsuyaも参拝に参加

工場見学では、大豆を蒸す工程から麹づくり、そして熟成まで、味噌󠄀ができるまでの一連の流れを詳しく教えていただきました。

工場に足を踏み入れると、ふわりと広がる大豆と米、麹のやさしい香り。その香りだけで、ここで丁寧においしい味噌󠄀が作られていることが、五感で伝わってきました。

大豆を蒸煮している様子 大豆を蒸煮している様子

特に印象的だったのは、麹室での米麹づくり。温度と湿度が厳密に管理された室内で、麹菌が米に働きかけ、じっくりと時間をかけて麹へと変わっていく様子は、まるで生き物を育てているかのようでした。

工場見学のあとには、実際に貯蔵タンクの中で味噌󠄀を踏む体験も。大豆と米麹、塩が混ざり合った仕込み味噌󠄀を踏んでいくと、足の裏から独特の感触が伝わってきます。

味噌󠄀づくりの原点を感じながら、一つ一つ丁寧に仕込まれていく様子を間近で見ることができました。

  • 参加者全員で御神酒を飲む様子 蒸した米に麹菌をつけ約40時間、製麹(せいきく)機の中で麹を育てる様子
  • ぐっち夫婦・Tatsuyaも参拝に参加 参加者が味噌󠄀踏みを体験する様子
  • ぐっち夫婦・Tatsuyaも参拝に参加 Tatsuyaも味噌󠄀踏みを体験

「手間」と「想い」が醸す、奥深い味わい

出来上がった味噌󠄀を手に取るTatsuya 出来上がった味噌󠄀を手に取るTatsuya

オートメーション化され、大量生産されるからこそ、私たちは日々、手頃な価格の味噌󠄀を安心して手に取ることができます。でも「大寒仕込み」の味噌󠄀には、今だからこそ大切にしたい「手間」と「想い」が、しっかりと込められていました。

なぜ大寒の時期に仕込むのか。それは、この時期の厳しい寒さが、雑菌の繁殖を抑え、ゆっくりと発酵を進めるのに最適な環境を生み出すからです。春を迎えて気温が上がると、麹菌や酵母菌が活発に働き始め、味噌󠄀は静かに、しかし確実に熟成していきます。

こうして生まれる「大寒仕込み」の味噌󠄀は、しっかりとした旨みを軸に、酸味、ほのかな甘味、渋味が重なり合い、口の中で静かに広がるのが特長です。長期熟成を経ることで香りにも深みが増し、味噌󠄀ならではの豊かな表情を見せてくれます。一口含むと、複雑で奥深い味わいが、舌の上でゆっくりと花開いていくような感覚があります。

数年にわたり熟成された味噌󠄀は、熟練の蔵人の手で、麹の粒をつぶさないよう丁寧にブレンドされ、ひかり味噌󠄀の最高品質の味噌󠄀として私たちのもとに届きます。

熟成した味噌󠄀をブレンドする様子 熟成した味噌󠄀をブレンドする様子

当たり前の「一杯」に感謝を込めて

一つ一つ丁寧に仕上げられる「名匠」 一つ一つ丁寧に仕上げられる大寒仕込み味噌󠄀『名匠

味噌󠄀づくりの原点に立ち返る「大寒仕込み」。社員の皆さんが仕込んだその瞬間に立ち会えたことで、これからは今まで以上に、一杯の味噌󠄀汁と丁寧に向き合いたい。そんな気持ちが、自然と芽生えました。

子どもの頃から当たり前のように食べていた味噌󠄀汁。朝起きてリビングの扉を開けると、台所から聞こえる母親の「おはよう」の言葉と一緒にふわーっと味噌󠄀汁の香りが漂っていた、あの日常の風景。その「当たり前」を支えてくれている人たちがいることに、あらためて感謝の気持ちが湧いてきます。

原料となる大豆や米を育てる人、味噌󠄀を仕込む人、それを運ぶ人、そして毎日味噌󠄀汁を作ってくれた家族。たった一杯の味噌󠄀汁の背景には、数え切れないほどの人の手と時間が重なっているのだと気づかされました。

だからこそ、改めて今回作りたくなったのが、母がよく作ってくれた毎日の味噌󠄀汁です。特別な材料でなくても、丁寧にだしを取り、味噌󠄀を溶くタイミングを大切にする。昆布とかつお節から取っただしの香り、沸騰させずにゆっくりと味噌󠄀を溶いていく、その一つ一つの所作に、意味があることを感じます。

発酵の旨みと、野菜の青さ、卵のやさしいコクが合わさった、毎日の食卓に寄り添う一杯。シンプルだからこそ、素材の良さと作り手の丁寧さが際立ちます。栄養価の高い卵を味噌󠄀汁へ入れていてくれたのはきっと、育ち盛りだった息子(私)が健康でいて欲しいという母親の愛だったのかなあ、と今は思います。

参加者で伝統的な味噌󠄀樽の縄縛りを体験する様子 参加者で伝統的な味噌󠄀樽の縄縛りを体験する様子

青菜と卵の味噌󠄀汁

青菜と卵の味噌󠄀汁 青菜と卵の味噌󠄀汁

材料(4人分)

作り方

  1. 鍋に水と昆布を入れ、1時間以上浸す。弱火にかけ、昆布の端に小さな気泡が出たら取り出す。沸騰したら火を止め、かつお節を加えて1〜2分待ち、静かにこしてだしを取る。
  2. ほうれん草は根元をよく洗い、たっぷりの湯でさっと下ゆでする。冷水に取って水気をしぼり、4〜5cm長さに切る。
  3. 鍋にだし汁を入れて温め、ほうれん草を加える。
  4. 一度火を止め、味噌󠄀を溶き入れる。
  5. 弱火をつけ、煮立たせないよう注意しながら卵を割り入れる。白身がふんわり固まったら火を止める。

今日の一杯が、日々の自分をそっと支えてくれている。大寒に仕込まれ、時間をかけて育った味噌󠄀は、そんなことをあらためて教えてくれる存在でした。

忙しい毎日の中で、つい忘れてしまいがちな「丁寧に行うこと」の大切さ。味噌󠄀汁を作る時間は、そんな丁寧さを取り戻すための、小さな儀式のようなものかもしれません。だしを取る香り、味噌󠄀を溶く音、湯気の向こうに見える朝の光。その一つ一つが、心を落ち着かせてくれます。

味噌󠄀を、もう一度好きになる。「大寒仕込み」に参加させていただいたことは、そんなきっかけとの出会いとなりました。

私にも子どもがいます。母さんから引き継いだこの味噌󠄀汁を子どもの代へと伝えていきたいと思います。一杯の味噌󠄀汁を通じて、作り手の想いや、時間の重みを感じながら、日々の食卓を大切にしていきたいです。

ぐっち夫婦

筆者プロフィール

ぐっち夫婦

夫Tatsuya、妻SHINOの夫婦で料理家として活動。
「日々の暮らしを楽しく美味しく。ちょっとおしゃれに」をモットーに、ライフスタイルに寄り添うレシピを考案し発信している。書籍出版の他、雑誌やテレビ出演、メディア連載の他、イベントにも多数出演し、オンライン料理教室も開催。YouTubeチャンネル「YouTubeふたりごはん【料理家ぐっち 夫婦の料理チャンネル】」などSNSの総フォロワー数は100万人以上を誇る。

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